この記事では、英語の勉強にもなる最新の科学技術に関するTEDのプレゼン動画を紹介します!
今回の動画は、「How the James Webb Space Telescope will unfold the universe|ジェームズ・ウェッブ望遠鏡が宇宙を拓く」です。
2021年のクリスマスに打ち上げられた、最新の宇宙望遠鏡であるJames Webb Space Telescope (JWST/ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡)。30年以上も天体観測を続けていたHubble Space Telescope(ハッブル宇宙望遠鏡)の後継機として開発されました。
これまで人類が知らなかった深宇宙(=過去の宇宙)の様子をさらに高精細に捉えることができるようになると言われています。
太陽光からミラーを守る菱形のシールドの上に、金色の六角形のアンテナが配置されている独特の形状。なんともSF好きの心をくすぐるデザインです。
詳細な背景や構造などは、私が説明するよりもWikipediaなどで日本語でも詳しく説明されているので、そちらをご覧ください!
撮影した画像などもNASAのホームページに掲載されています。興味のある方は是非ご覧ください。
それでは動画をどうぞ!
動画紹介
タイトル:How the James Webb Space Telescope will unfold the universe(ジェームズ・ウェッブ望遠鏡が宇宙を拓く)
プレゼンター:John C. Mather(ジョン・C・マザー)
感想
まずは何より、分かりやすい説明と共に、JWSTプロジェクトの全体像や展開する様子が映像で見られることが素晴らしいです。プレゼン云々というよりも、これまで人間が知らなかった領域を観測できるようになったという事実に興奮します。
著者のMather氏は、この最新宇宙望遠鏡のプロジェクトを統括している人物です。そうした立場であるにもかかわらず、このプレゼンからは彼の「個人的な」興味や好奇心・探求心をひしひしと感じました。
こうした宇宙開発や観測プロジェクトの意味や意義は、人や国によって、様々な意見があるのではないかと思います。ただこのプレゼンを見ると、まずはそんな複雑なことは無視して、純粋にワクワクしてもよいのではないか…と思ってしまいます。
人間の単純な好奇心が、こうしたプロジェクトやサイエンスの推進力になっている気がしました。
宇宙の向こうに何があるのか、あの星には何があるのか、研究の続報が楽しみです。
出典:NASA
プレゼンの構成とテクニック
個人の目線で動機を語る
プレゼンの冒頭で、Mather氏は自らの幼少期の話をします。
小さい頃に父親から聞いたという、「お前はとても小さな細胞でできていて、その中に詰まった遺伝子がお前の運命を左右するのだ」という話です。小さな男の子が父親と話している光景が頭に浮かびます。とても日常的な絵です。
その後、その話が宇宙へとつながっていきます。
序盤に個人的な話を入れることで、聞き手はこのプレゼンを「情報」ではなく「ストーリー」として受け取り、話の中に入り込むことができるようになります。「教科書は全然頭に入ってこないのに、小説は楽しい」のと同じです。
ゴールデンサークルの記事でも紹介していますが、「なぜするのか」という動機を語っているのも、人の心を動かすのに一役買っていると思います。
全体像がイメージできる構成
冒頭で日常的な話をした後、話は望遠鏡の打ち上げ、宇宙への到達とラグランジュポイント(L2)への到着、シールドやミラーの展開へと進みます。そして、太陽系や外宇宙の観測が始まります。
このプレゼンでは、JWSTの機能や目的などの難しい話だけでなく、我々の日常とそれらがどのように繋がっているのかが順に描写され、追体験できるような構成になっているのではないかと思います。
それによって、我々の身近な生活から、望遠鏡の開発、そして太陽系や外宇宙まで、各要素の関係性がイメージできるのではないでしょうか。これも上記と同じで、単なる夢物語ではなく、我々が今いる場所からつながる地続きのストーリーとして受け取るための仕掛けだと思っています。
英語のフレーズ
プレゼンの中で使われている英語フレーズをいくつかピックアップして紹介します!
英語の言い回しや動画の話し方をうまく応用すれば、より分かりやすく説得力がある説明ができるようになるはずです。
このパラグラフでは、We did not (yet) know… で始まる文章が、2つ繰り返されています。1つ目の文の中に2回出てくる”that“はいずれも接続詞のthatで、We did not knowとthat以降の文章を繋いでいます。一方、2つ目の文ではthatが省略されていますが、これも同じ構文です。
つまりこの文章全体で、3回も同じ内容を言い換えて“We did not know”と言っているのです。
それぞれの文の主語は異なりますが、実は「化学元素→身の回りのすべてのもの→自分もその一部」と、指しているものの範囲を絞り込んでいるだけです。それによって、自分を含む全てが「星からできている」と言うことを説明しているわけです。この論理構造によって、各文の対応関係が強調されています。
「自分らが再生された星である」というとてもインパクトのある言葉を、論理的に順序を追いながら、さらに印象付ける構造になっているのです。日本語訳バージョンでも、同じ構文を繰り返すことでその対応関係を表していますね。
ロケットの中で折りたたまれていた望遠鏡が広がっている様子を説明する部分で、本動画の目玉の一つでもあります。ここでミラーなどが「展開」される様子をunfoldと説明しています。
unfold という動詞は、このTED動画のタイトル「How the James Webb Space Telescope will unfold the universe」にも使われています。そしてそちらでは、宇宙を“拓く”(=開拓する)と訳されています。
「望遠鏡を展開する」という物理的・直接的な意味と、「宇宙を拓く」という概念的な意味の二重の意味をもつタイトルになっていると考えられます。目的語を変えて解釈するだけで、深い意味になるというわけです。クールですね。
日本語バージョンの場合は完全にそのニュアンスを再現するのは難しいのかもしれませんが、「開く」と「拓く」を同じ音にすることで、二重の意味を表現しているのかもしれませんね。
People ask me:日本語だと、「私もよく質問されますが、」というように、自分が主語になるのが自然です。ですが英語の場合、日本語以上に他人やモノが主語になる場合が多いです。
kind we have here:we have here が kindを修飾しています。その間には、関係代名詞のthatなどが隠れています。
日本語訳にある生物種や生命体に相当するのが、”kind“です。
通常、生物学的な分類における種を表す際は”spiecies“を使います。kindの場合はもう少し一般的な意味で”種類“というニュアンスが強いのではないかと思います。kind of ~ で、ある種の~というような使い方もしますね。
もしかしたら、spieciesは「人類がこれまで構築してきた地球上の生物分類学の区分」という意味が強いため、今回の説明には適切ではないと判断したのかもしれません。
「既存の分類には当てはまらない(地球外)生物種」である可能性が高いのだとしたら、その可能性を表現するために、あえて広い意味を持つkindを使用したのかもしれませんね。
このサイトでは、他にも動画の紹介やプレゼンのテクニック、英語のコツなどを紹介しているので、是非ご覧ください。面白い動画を日英の字幕付きで身ながら、一緒にプレゼンのレベルアップを目指しましょう!